労経速2073号
〔事案の概要〕
退職し、競業会社の代表取締役に就任した原告(勤続28年余)が、雇用契約に基づいて、退職金規程による退職金の支払いを求めたもの。退職の際、被告から、退職後1年間は同業他社に就職することができないと言われるとともに、その旨の誓約書を作成し、被告に対して提出している。
〔結論〕
原告の退職金請求は理由がない。
〔判示事項〕
① 退職金支払義務が免れるか
・ 「本件退職金規程には本件不支給事由が定められているが、退職者が競業避止義務を負うべき期間が最長1年とされるなど、当該規定の内容をみる限り、それ自体を不合理であるということはできない。もっとも、・・・その退職金は、賃金の後払いとしての性格を色濃く有するものと解される。・・・仮に原告に同条に違反する事実が認められるとしても、被告において、そのこと自体から直ちに本件不支給事由に当たることを理由に原告の退職金請求を拒むことができるものではなく、当該違反の事実が、当該事実がありながらなお退職金を請求することが信義に反するといえるような背信性を有するものであるという場合にはじめて、本件不支給事由に当たることを理由にその退職金請求を拒むことができるものと解するのが相当である。」
・ 「原告は、このように被告が敵視していた訴外会社に、退職からわずか4ヶ月も経ないで入社した上、あろうことか、その退職から6ヶ月も経ずして、その代表取締役に就任し、その経営の一切を取り仕切るに至っているのである。・・・本件就業規則の規定を十分に認識していた原告によるこのような行為は、訴外会社への入社とその代表取締役への就任がやむを得ないといえるような特段の事情がない限り、被告に対する関係で正に信義にもとるものといわなければならない。」
〔コメント〕
・ ヤマガタ事件(東京地裁H22.3.9)と比較して、本件事案では、誓約書を提出しているにもかかわらず、被告会社が以前より敵視していた会社に就職し、代表取締役に就任している事実をことさら重視し、背信性を認定している。
・ 「賃金の後払いとしての性格」をすべて滅却させるような背信性があるのかどうか疑問である。
2010年7月5日月曜日
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