2010年7月6日火曜日

労働審判(残業代請求)の第一回期日

今日は、先日の残業代請求の労働審判とはまた別件の労働審判の期日でした。

残業代請求の場合、証拠がしっかりしていれば、争点はほぼ同じであり、会社側
から出てくる答弁内容も驚くほど一緒です。

こちらも既にそれを想定しているので、申立書の段階で、会社側の主張を減殺す
るような判例を予め引用し、その主張を封じておくわけです。

しかし、会社側の代理人としては、答弁書に書くことがなくなるため、無理筋の主張
をしてくることになります。

まともな会社側の代理人であれば、無理筋の主張であることが分かっているため、
労働審判の期日においては、和解に非常に協力的であり、場合によっては会社の
経営陣を和解の方向で説得してくれることも多いといえます。

今日の事件も、会社側の代理人は非常に和解に協力的でした。ただ、必要以上に
自分の依頼人に不利な事実を自ら述べてしまうなど、見ていてこちらが冷や冷やし
ました。かなり年配の弁護士だったのですが・・・。

2010年7月5日月曜日

東京コムウェル事件・東京地裁H22.3.26 -競業会社の代取に就任した元従業員による退職金請求

労経速2073号

〔事案の概要〕

退職し、競業会社の代表取締役に就任した原告(勤続28年余)が、雇用契約に基づいて、退職金規程による退職金の支払いを求めたもの。退職の際、被告から、退職後1年間は同業他社に就職することができないと言われるとともに、その旨の誓約書を作成し、被告に対して提出している。

〔結論〕

原告の退職金請求は理由がない。

〔判示事項〕

① 退職金支払義務が免れるか

・ 「本件退職金規程には本件不支給事由が定められているが、退職者が競業避止義務を負うべき期間が最長1年とされるなど、当該規定の内容をみる限り、それ自体を不合理であるということはできない。もっとも、・・・その退職金は、賃金の後払いとしての性格を色濃く有するものと解される。・・・仮に原告に同条に違反する事実が認められるとしても、被告において、そのこと自体から直ちに本件不支給事由に当たることを理由に原告の退職金請求を拒むことができるものではなく、当該違反の事実が、当該事実がありながらなお退職金を請求することが信義に反するといえるような背信性を有するものであるという場合にはじめて、本件不支給事由に当たることを理由にその退職金請求を拒むことができるものと解するのが相当である。」

・ 「原告は、このように被告が敵視していた訴外会社に、退職からわずか4ヶ月も経ないで入社した上、あろうことか、その退職から6ヶ月も経ずして、その代表取締役に就任し、その経営の一切を取り仕切るに至っているのである。・・・本件就業規則の規定を十分に認識していた原告によるこのような行為は、訴外会社への入社とその代表取締役への就任がやむを得ないといえるような特段の事情がない限り、被告に対する関係で正に信義にもとるものといわなければならない。」

〔コメント〕

・ ヤマガタ事件(東京地裁H22.3.9)と比較して、本件事案では、誓約書を提出しているにもかかわらず、被告会社が以前より敵視していた会社に就職し、代表取締役に就任している事実をことさら重視し、背信性を認定している。

・ 「賃金の後払いとしての性格」をすべて滅却させるような背信性があるのかどうか疑問である。

ヤマガタ事件・東京地裁H22.3.9 -競業会社に就職した元従業員による退職金請求

労経速2073号

〔事案の概要〕

本件は、被告を退職した原告が、雇用契約に基づき、退職金400万円の支払いを被告会社に対し請求した事案。会社は、原告には就業規則違反(競業避止義務違反等)があるとして、これを争った。

〔結論〕

原告の被告に対する自己都合退職を理由とする退職金(中途退職一時金)の請求は、正当なものとして、これを容認するのが相当である。

〔判示事項〕

① 退職金請求の正当性

・ 「被告の就業規則52条3項は、何らの代償措置もなく同業他社に対する2年間の就職を禁ずるものであり、その違反の効力は、労働者の職業選択の自由の不当な制限にならないよう合理的な制限が加えられてしかるべきであるところ、原告が就職したセキショウ社は現在実質4名の従業員で構成される小規模な会社であり、売上高及び経常利益も被告会社に及ばないものである。」

・ 原告には就業規則に定める52条3項違反の事実があり、また、就業規則の懲戒解雇相当事由という退職金不支給事由が形式的には存するけれども、「前記事情を総合考慮するときは、原告の勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信性があるとまではいえないし、退職金(中途退職一時金)の請求が権利の濫用であるということもできない。」

〔コメント〕

・ 転職先が小規模な会社であることが、一つの大きな理由付けとなっている。

三佳テック事件・最高裁H22.3.25 -退職後の競業行為

労経速2073号

〔事案の概要〕

被上告人の従業員であった上告人A及びBが、被上告人を退職後、上告人㈲サクセスを事業主体として競業行為を行ったため、被上告人が損害を被ったとして、被上告人が上告人らに対し、不法行為又は雇用契約に付随する信義則上の競業避止義務違反に基づく損害賠償を請求した事案。本件では、被上告人と上告人らとの間で退職後の競業避止義務に関する特約等は定められていなかった。

〔結論〕

本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、被上告人に対する不法行為に当たらないというべきである。

〔判示事項〕

① 不法行為の該当性

・ 「上告人Aは、退職のあいさつの際などに本件取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの、本件取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、被上告人の営業秘密に係る情報を用いたり、被上告人の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。」

・ 「本件取引先のうち3社との取引は退職から5ヶ月ほど経過した後に始まったものであるし、退職直後から取引が始まったF社については、前記のとおり被上告人が営業に消極的な面もあったものであり、被上告人と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず、上告人らにおいて、上告人Aらの退職直後に被上告人の営業が弱体化した状況を殊更利用したとも言い難い。」

・ 「以上の諸事情を総合すれば、本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、被上告人に対する不法行為に当たらないというべきである。」

〔コメント〕

・ 「最高裁は、自由競争の範囲を割合広く捉える立場を示しており、不法行為の成立するケースを限定している」との解説がなされている。

・ 競業避止の特約があった場合、上記理由付けから違法性が否定されるとも考えられるし、本判例の射程外とも考えられる。

2010年6月25日金曜日

労働審判

今日は、従業員側で残業代請求を申し立てた労働審判の第一回期日でした。

答弁書はこちらの想定したとおりの内容で、こちらの想定した以上の結論が
出ました。

労働審判は、その日のうちに審尋が行われ、依頼者のいる前で裁判官の
心証が開示されるのでかなり緊張しますが、うまくいった時はとても
気持ちのいいものです。

こういうときは弁護士として充実感を感じます。

2010年6月11日金曜日

ヤマダ電機事件・東京地裁H19.4.24 -退職後の競業避止義務

〔事案の概要〕

会社が、店長であった被告が退職に際して作成した「退職後の守秘義務と退職後1年間の競業避止義務及び退職金の半額と直近の給与6ヶ月分を違約金とする」旨の誓約書に違反して、競業他社に転職した。

〔結論〕

 被告が退職の際に差し入れた誓約書上の競業避止義務違反を有効と認め、退職金の半額と給与1ヶ月分の違約金の支払いを命じた。

〔判示事項〕

① 本件競業避止条項の有効性

・ 「会社の従業員は、元来、職業選択の自由を保障され、退職後は競業避止義務を負わないものであるから、退職後の転職を禁止する本件競業避止条項は、その目的、在職中の被告の地位、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして有効性が否定されると考えられる。」

・ 本件競業避止条項の目的は、原告の全社的な営業方針、経営戦略等の保護を目的としており、・・・・原告固有のノウハウ等につき原告が具体的に主張立証しなくても、被告の防御権が侵害されることはないと解される。

・ 転職が禁止される範囲について、「本件競業避止条項の対象となる同業者の範囲は、家電量販店チェーンを展開するという原告の業務内容に照らし、自ずからこれと同種の家電量販店に限定されると解釈することができる。」

・ 退職後1年という期間について、「原告が本件競業避止条項を設けた前記目的に照らし、不相当に長いものではないと認められる。」

② 損害賠償の額

・ 本件違約金について、退職金には賃金の後払としての性格と共に功労報償的な性格もあることも考慮すると、本件誓約書に違反した場合に退職金を半額とすることも不合理ではない。給与については、現実に稼働したことの対価として支給されるものであるから、現実に損害の立証がなく、違反の態様が軽微ではないことを考慮して、1か月分が合理的であるとした。

〔コメント〕

・ 固有のノウハウなど、具体的な営業秘密を保護の対象とするこれまでの判例とは一線を画している。

・ 労基法16条(違約金の定め、賠償予定の禁止)との関係は不明である。

・ 違約金の額を裁判所が認定してよいのか(民法420条1項「裁判所は、その額を増減することができない。」)

2010年6月9日水曜日

<労働審判>申し立て過去最多

<労働審判>申し立て過去最多 不況を反映http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100607-00000055-mai-soci 平成22年6月7日 毎日新聞

以前の投稿でも書きましたが、労働審判の申立件数が毎年すごい勢いで増加しています。
特に、東京や大阪の増加数は顕著のようです。

ただ、上記報道では、地方での申立件数がまだ少ないと指摘されています。

東京では年間1100件、大阪や名古屋では年間300件弱の申立がなされていますが、他方、甲府や和歌山、富山、松江、山形、青森などでは、年間で一桁の申立しかなされていません(平成21年度)。

たしかに、企業の数は東京や大阪が格段に多いとは思いますが、これほどまで差が生じるのか、いささか疑問です。

東京や大阪はひどい会社が多いとも思えませんし、逆に、地方の会社の方が労務管理がしっかりしているとも思えません・・・(笑)

地方の申立件数が少ないのは、地方では裁判などをしたら噂が広まってしまう、地方企業は地元の名士が多いので、そのような名士に対して裁判など起こせない、といった理由もあるのでしょう。

ただ、もう一つ理由があるとしたら、我々弁護士サイドの問題ではないかと思っています。

弁護士の中では、労働法は誰もが対応できるという分野ではなく、専門領域として考えられています。最近は労働審判が増加しているため、労働法を手がける弁護士も増えてはきていますが、まだまだ少ないのではないでしょうか。

労働法分野は、各種通達なども多く、最近は法改正が相次いでいるので、それらを追っていくだけでも弁護士にとっては大変な分野となっています。

都道府県労働局(労働基準監督署を含む)には年間100万件もの相談が寄せられているということです。

従って、我々弁護士も研鑽を重ね、これらの埋もれている事件を発掘し、不当な扱いを受けている労働者を救済していかなければならないのではないかと感じています。自戒をこめて。