2010年11月19日金曜日

半休を付与した日の残業代の計算は?

弁護士として使用者側の相談を受けていると、判例や文献等には書かれていないような問題を聞かれることがよくあります。たしかに、企業の人事担当者にとってみれば当然のことですが、文献等を見ればすぐに分かるようなことをわざわざ弁護士に聞くこともないわけです。

今回取り上げる問題も、労働法関連の本が多く出版されている中、この点について明確に述べたものは少ないと言えます。

問題点は極めてシンプルです。「半休を取った場合、残業代の計算はどのようにするのでしょうか?」というものです。

まず、この問題の前提として、半日単位の年休が認められるかという点については、労働法の文献を見れば必ず解説がある部分です。

すなわち、年休の付与単位は、労基法39条1項の規定により「1労働日」であり、暦日計算(午前0時から午後12時まで)を原則とするため、年休を時間単位や半日単位で付与することは違法となります(土田・労働契約法333頁)。

但し、会社の就業規則等で定めることにより、会社側が半日単位の年休について任意に応じることは違法ではないとされています。これは、「年休を半日ずつ請求することができるか」との問いに対して、旧労働省が「使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない」(昭24.7.7基収第1428号、昭63.3.14基発第150号・婦発第47号)という通達を出したことから、逆説的な解釈として、使用者が半日単位の年休を任意で認めることは差し支えないという解釈からきているようです。

次に、午前中に半日単位の年休を取った場合、いつから残業割増を支払うのかという問題があります。

すなわち、年休はいわゆる“有給休暇”として賃金計算上は賃金が支払われている(すなわち、就労しているものとみなされる)ことから、例えば所定労働時間が9時から18時までの場合、18時を過ぎたら、残業割増をしなければならないのではないかと考えることも可能となります。

しかし、労働基準法の規定及び原則からすると、そのような解釈は取りません。

すなわち、残業代算定の前提はあくまでも実労働時間であり、実労働時間が1日8時間を超えた場合に、その超えた時間について残業割増をしなければならないというのが労働基準法の原則となります(労働基準法37条1項)。

そこで、実際に就労した時間が8時間を超えない限り、割増賃金の支払義務も生じないということになります。

上記の例に当てはめると、所定労働時間が9時から18時で、午前中(12時まで)に半休を取った場合、12時から18時まで(6時間)は通常の所定時間労働となり、18時から20時まで(2時間)はその時間に応じた賃金(割増率をかける前の時間単価×2時間)を支払い、20時以降は時間外割増賃金(時間単価×1.25×当該時間)を支払う必要があります。

なお、22時以降は、時間外割増(25%以上)の他に深夜割増(25%)をしなければならないので、50%以上の割増を支払う必要がでてくることになります。

ただし、実務上は、このような複雑な計算を給与計算ソフトに埋め込むのが困難であるため、18時以降の労働にはすべて割増賃金を支払っている企業も多いようです。

このように、この問題は、労働基準法の原理原則から考えれば結論を導き出せるのですが、労働法の文献ではここまで懇切丁寧に解説していないということになります。他にも、無数にこのような問題はあり、そこに弁護士の存在価値はあると言えます。