2010年7月23日金曜日

外国人労働者の受け入れ

外国人がわが国で就労するには、その外国人が、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」といいます。)で定められた就労が認められる在留資格を有していることが必要となります(入管法2条の2第1項)。

在留資格を就労との関係で大別すれば、以下の4つに分けることができます。

 就労が認められる在留資格として、「投資・経営」、「技術」、「人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「技能」、「技能実習」などがあります。

② 就労が認められない在留資格としては、「文化活動」、「短期滞在」、「留学」、「研修」、「家族滞在」があります。なお、「留学」は、資格外活動の許可(入管法19条2項)を得た場合には就労が認められています(例えば、留学生について、留学を「阻害しない範囲」と判断される限度で就労が認められる場合があります。)。

③ 個々の許可内容によるものとしては、例えば、「特定活動」という在留資格においては、外交官等の家事使用人などについて就労が認められます(平成2年5月24日法務省告示第131号)。

④ 就労活動に制限のないものとして、「定住者」、「永住者」、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」が挙げられます。

上記のとおり、日本において就労が認められるのは、一定の技能・知識を有する外国人のみであり、いわゆる単純労働といわれる労働のための在留資格は、原則として認められていません。

単純労働者の受入れについては高度の政策的考慮を要する問題であって(実際、ヨーロッパでは移民政策の失敗で社会問題となっています)、政府関係者や産業界の中でもさまざまな議論がなされており、最終的な結論には至っていないようです。

平成17年3月、法務大臣から公表された「第3次出入国管理基本計画」は、我が国における出入国管理行政の主要な課題と今後の方針などが要約されています。

その項目の1つとして、「我が国が必要とする外国人の円滑な受入れ」という項目が掲げられており、まず、①専門的、技術的分野における外国人労働者については、積極的に受け入れようとする立場が表明されています。すなわち、「専門知識、技術等を有し、我が国の経済社会の活性化に資することから、これまでも積極的な受入れを図っているが、現行の在留資格や上陸許可基準に該当しないものでも、専門的、技術的分野と評価できるものについては、経済、社会の変化に応じ、産業及び国民生活に与える影響等を勘案しつつ、在留資格や上陸許可基準の整備を行い、積極的な受入れを進めていく」としています。

これに対し、②専門的、技術的分野以外の労働については、「生産年齢人口の減少の中で、我が国経済の活力及び国民生活の水準を維持する必要性、国民の意識及び我が国の経済社会の状況等を勘案しつつ、現在では専門的、技術的分野に該当するとは評価されていない分野における外国人労働者の受入れについて着実に検討していく。その際には、新たに受入れを検討すべき産業分野や日本語能力などの受入れ要件を検討するだけではなく、その受入れが我が国の産業及び国民生活に与える正負両面の影響を十分勘案する必要があり、その中には例えば国内の治安に与える影響、国内労働市場に与える影響、産業の発展・構造転換に与える影響、社会的コスト等多様な観点が含まれる。・・・・いずれにしても、人口減少、少子・高齢化への対応は、単一の行政分野だけで解決できる問題ではなく、技術革新のための取組など産業分野を含めた様々な分野の施策の連携が不可欠であり、その中で、出入国管理行政としても様々な要望を考慮しつつ検討を進めていくこととする」と記載されています。

さらに、平成22年3月に法務大臣から公表された「第4次出入国管理基本計画」によれば、「我が国社会が必要とする外国人の受入れの在り方も、より積極的なものへ展開していくことが求められている」とし、次の3つの具体的な外国人の受入れ施策を提案しています。

まず、①「高度人材に対するポイント制を活用した優遇制度の導入」として、我が国が戦略的に受入れを促進していくべき人材、例えば、研究者、医師、弁護士、情報通信分野等の技術者、企業の経営者や上級幹部などを対象として、「「学歴」、「資格」、「職歴」、「研究実績」など、分野の特性に応じて設定した所定の項目について、項目毎にポイントを付け、ポイントが一定点数に達したものに対し、我が国への円滑な入国や安定的な在留を保障する」などの施策を提案しています。

次に、②「経済社会状況の変化に対応した専門的・技術的分野の外国人の受入れの推進」として、経済社会状況の変化等に伴い、専門的・技術的分野の人材の新たな受入れニーズが発生した場合には、「我が国の労働市場や産業、国民生活に与える影響等を勘案しつつ、在留資格や上陸許可基準の見直し等を行い、受入れを進めていく」としています。

最後に、③「我が国の国家資格を有する医療・介護分野の外国人の受入れ」として、現在、「医療」の在留資格において就労年数が制限されているところ(歯科医師は免許を受けた後6年以内、看護士は免許を受けた後7年以内、保健師・助産師・准看護師は免許を受けた後4年以内)、これらの者について就労年数を制限する必要性は乏しいのではないかとの指摘もあり、「その見直しを検討する」とされています。また、介護分野での外国人の受入れについて、「我が国の大学等を卒業し、介護福祉士等の一定の国家資格を取得した外国人の受入れの可否について、検討を進めていく」としています。

このように、現時点では、専門的、技術的分野での人材を積極的に受け入れていこうという点に焦点があてられており、出入国管理行政もこのような人材に対しては在留資格の付与要件を緩和しているというのが現在の流れのようです。

従って、外国人を単純労働者として受け入れようと考えている企業は十分に留意する必要がありそうです。

2010年7月22日木曜日

外国人雇用-在留資格「技能実習」の新設(平成22年7月1日施行)

従前、就労可能な在留資格として、研修・技能実習制度が設けられていました。

この研修・技能実習制度は、我が国で開発され培われた技術・技能・知識の開発途上国等への移転を図り、当該開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に寄与することを目的として創設されましたが、研修生や技能実習生の受入れ機関の一部には、本来の目的を十分に理解せずに、技能実習の名目で安価な外国人労働力を獲得する目的で制度を濫用するといった事例が見受けられました。

例えば、研修生及び技能実習生を受け入れる機関の中には、他人名義の旅券を使用させて「研修生」として入国させ稼働させていた事例や、研修生に月100時間を超える所定時間外作業を行わせていた事例、劣悪な環境の宿舎に居住させたり、旅券等を強制的に取り上げる等の研修生・技能実習生の人権侵害に至るような事例などが報告されていました(以上、平成19年12月法務省入国管理局「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」より引用)。

そこで、従前の研修・技能実習制度における不適正事例を排除し、研修生や技能実習生の法的保護の強化を図るため、平成21年7月、出入国管理及び難民認定法を改正し、新たに「技能実習」という在留資格を設けました(平成22年7月1日より施行)

新たな技能実習制度は、受入れ機関の区別により、以下の2つのタイプがあります。

一つは、「企業単独型」といわれるもので、我が国の企業等(実習実施機関)が海外の現地法人や合弁企業等、事業上の関係を有する企業の職員を受け入れて、実習実施機関との雇用契約に基づいて技能実習を実施する形態をいいます。

もう一つは、「団体監理型」といわれるもので、商工会等の法務省令で定める要件に適合する営利を目的としない団体(監理団体)の責任及び監理の下、傘下の企業(実習実施機関)との雇用契約に基づいて技能実習を実施する形態をいいます。

これらの二つのタイプのそれぞれが、入国後1年目の技能等を習得する活動と、2~3年目の習得した技能等に習熟するための活動とに分けられ(技能実習1号と2号の期間を合わせて最長3年)、以下の表のとおり、その在留資格が4区分に分けられました。


なお、技能実習2号へ移行するには、技能検定基礎2級等の検定試験に合格する必要があります。
この新たな技能実習制度により、技能実習生は1年目から実習実施機関と雇用契約を締結した上で技能実習を受けることになったため、労働基準法、最低賃金法等の労働関係法令の適用が及ぶようになりました。

また、実習実施機関や監理団体は、技能実習生に対して、「日本語」「本邦での生活一般に関する知識」「技能実習生の法的保護に必要な情報」及び「本邦での円滑な技能等の習得に資する知識」に関する講習を実施する義務を負うこととなりました。

その他、監理団体による指導・監督・支援体制の強化、運営の透明化を図るような様々な制度や規制が設けられました。

詳細は下記のサイトをご覧下さい。

http://www.moj.go.jp/ONLINE/IMMIGRATION/ZAIRYU_NINTEI/zairyu_nintei10_0.html

以上のとおり、外国人を雇用している企業は、今回の入管法改正に留意する必要があります。

2010年7月16日金曜日

労働調停制度、試験的導入へ

まだ公式の発表はないようですが、最高裁は、この秋から
労働調停制度を東京簡裁などで試験的に導入するようです。

この秋から導入とは、余りにも突然で、性急すぎるのでは
ないかとも思われるのですが、既に調停委員も内定している
とのこと。

昨今の司法改革の中で、労働審判は唯一の成功例と言われ、
年々申立件数が増加し、昨年は一昨年からそれほど増えませ
んでしたが、今年度も同様の水準で申立がなされていること
からすると、申立件数は年間3500~4000件に高止まりするの
ではないかと言われています。

そこで、最高裁は、裁判官の負担を軽くするためなのか、新た
に現行の民事調停制度を利用した労働調停制度を導入する
ことにしたようです。

現在の民事調停は、調停委員が両当事者の話を聞いて、最後
に調停官(裁判官)が調停をまとめるという進行で行われている
のですが、我々実務家の間では、調停委員が自分の意見を押
し付ける、両当事者の話に引きずられてなかなか話し合いにな
らない、権利関係を踏まえた解決にならない、早期の解決がで
きないなど、必ずしも評判の良い手続ではありません。

また、労働審判は、基本的に弁護士が代理することを前提とし、
法的な観点から事実関係を整理した申立書及び答弁書が提出
されることから、約2ヶ月という早期解決が可能となったと言われ
ています。

労働調停制度は、おそらく代理人のついていない本人申立を
その前提としていることは明らかです。労働調停制度が労働審判
のように成功するかは疑わしいと言わざるを得ず、もう少し時間を
かけて制度設計してもよいのではないかと思います。

2010年7月6日火曜日

労働審判(残業代請求)の第一回期日

今日は、先日の残業代請求の労働審判とはまた別件の労働審判の期日でした。

残業代請求の場合、証拠がしっかりしていれば、争点はほぼ同じであり、会社側
から出てくる答弁内容も驚くほど一緒です。

こちらも既にそれを想定しているので、申立書の段階で、会社側の主張を減殺す
るような判例を予め引用し、その主張を封じておくわけです。

しかし、会社側の代理人としては、答弁書に書くことがなくなるため、無理筋の主張
をしてくることになります。

まともな会社側の代理人であれば、無理筋の主張であることが分かっているため、
労働審判の期日においては、和解に非常に協力的であり、場合によっては会社の
経営陣を和解の方向で説得してくれることも多いといえます。

今日の事件も、会社側の代理人は非常に和解に協力的でした。ただ、必要以上に
自分の依頼人に不利な事実を自ら述べてしまうなど、見ていてこちらが冷や冷やし
ました。かなり年配の弁護士だったのですが・・・。

2010年7月5日月曜日

東京コムウェル事件・東京地裁H22.3.26 -競業会社の代取に就任した元従業員による退職金請求

労経速2073号

〔事案の概要〕

退職し、競業会社の代表取締役に就任した原告(勤続28年余)が、雇用契約に基づいて、退職金規程による退職金の支払いを求めたもの。退職の際、被告から、退職後1年間は同業他社に就職することができないと言われるとともに、その旨の誓約書を作成し、被告に対して提出している。

〔結論〕

原告の退職金請求は理由がない。

〔判示事項〕

① 退職金支払義務が免れるか

・ 「本件退職金規程には本件不支給事由が定められているが、退職者が競業避止義務を負うべき期間が最長1年とされるなど、当該規定の内容をみる限り、それ自体を不合理であるということはできない。もっとも、・・・その退職金は、賃金の後払いとしての性格を色濃く有するものと解される。・・・仮に原告に同条に違反する事実が認められるとしても、被告において、そのこと自体から直ちに本件不支給事由に当たることを理由に原告の退職金請求を拒むことができるものではなく、当該違反の事実が、当該事実がありながらなお退職金を請求することが信義に反するといえるような背信性を有するものであるという場合にはじめて、本件不支給事由に当たることを理由にその退職金請求を拒むことができるものと解するのが相当である。」

・ 「原告は、このように被告が敵視していた訴外会社に、退職からわずか4ヶ月も経ないで入社した上、あろうことか、その退職から6ヶ月も経ずして、その代表取締役に就任し、その経営の一切を取り仕切るに至っているのである。・・・本件就業規則の規定を十分に認識していた原告によるこのような行為は、訴外会社への入社とその代表取締役への就任がやむを得ないといえるような特段の事情がない限り、被告に対する関係で正に信義にもとるものといわなければならない。」

〔コメント〕

・ ヤマガタ事件(東京地裁H22.3.9)と比較して、本件事案では、誓約書を提出しているにもかかわらず、被告会社が以前より敵視していた会社に就職し、代表取締役に就任している事実をことさら重視し、背信性を認定している。

・ 「賃金の後払いとしての性格」をすべて滅却させるような背信性があるのかどうか疑問である。

ヤマガタ事件・東京地裁H22.3.9 -競業会社に就職した元従業員による退職金請求

労経速2073号

〔事案の概要〕

本件は、被告を退職した原告が、雇用契約に基づき、退職金400万円の支払いを被告会社に対し請求した事案。会社は、原告には就業規則違反(競業避止義務違反等)があるとして、これを争った。

〔結論〕

原告の被告に対する自己都合退職を理由とする退職金(中途退職一時金)の請求は、正当なものとして、これを容認するのが相当である。

〔判示事項〕

① 退職金請求の正当性

・ 「被告の就業規則52条3項は、何らの代償措置もなく同業他社に対する2年間の就職を禁ずるものであり、その違反の効力は、労働者の職業選択の自由の不当な制限にならないよう合理的な制限が加えられてしかるべきであるところ、原告が就職したセキショウ社は現在実質4名の従業員で構成される小規模な会社であり、売上高及び経常利益も被告会社に及ばないものである。」

・ 原告には就業規則に定める52条3項違反の事実があり、また、就業規則の懲戒解雇相当事由という退職金不支給事由が形式的には存するけれども、「前記事情を総合考慮するときは、原告の勤続の功を抹消又は減殺するほどの著しい背信性があるとまではいえないし、退職金(中途退職一時金)の請求が権利の濫用であるということもできない。」

〔コメント〕

・ 転職先が小規模な会社であることが、一つの大きな理由付けとなっている。

三佳テック事件・最高裁H22.3.25 -退職後の競業行為

労経速2073号

〔事案の概要〕

被上告人の従業員であった上告人A及びBが、被上告人を退職後、上告人㈲サクセスを事業主体として競業行為を行ったため、被上告人が損害を被ったとして、被上告人が上告人らに対し、不法行為又は雇用契約に付随する信義則上の競業避止義務違反に基づく損害賠償を請求した事案。本件では、被上告人と上告人らとの間で退職後の競業避止義務に関する特約等は定められていなかった。

〔結論〕

本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、被上告人に対する不法行為に当たらないというべきである。

〔判示事項〕

① 不法行為の該当性

・ 「上告人Aは、退職のあいさつの際などに本件取引先の一部に対して独立後の受注希望を伝える程度のことはしているものの、本件取引先の営業担当であったことに基づく人的関係等を利用することを超えて、被上告人の営業秘密に係る情報を用いたり、被上告人の信用をおとしめたりするなどの不当な方法で営業活動を行ったことは認められない。」

・ 「本件取引先のうち3社との取引は退職から5ヶ月ほど経過した後に始まったものであるし、退職直後から取引が始まったF社については、前記のとおり被上告人が営業に消極的な面もあったものであり、被上告人と本件取引先との自由な取引が本件競業行為によって阻害されたという事情はうかがわれず、上告人らにおいて、上告人Aらの退職直後に被上告人の営業が弱体化した状況を殊更利用したとも言い難い。」

・ 「以上の諸事情を総合すれば、本件競業行為は、社会通念上自由競争の範囲を逸脱した違法なものということはできず、被上告人に対する不法行為に当たらないというべきである。」

〔コメント〕

・ 「最高裁は、自由競争の範囲を割合広く捉える立場を示しており、不法行為の成立するケースを限定している」との解説がなされている。

・ 競業避止の特約があった場合、上記理由付けから違法性が否定されるとも考えられるし、本判例の射程外とも考えられる。