2010年3月26日金曜日

「名ばかり取締役」とは・・・あまりにひどい

先ほど、Yahoo ニュースを見ていたら、「『名ばかり取締役』解雇無効」というタイトルに目がとまりました。

「名ばかり管理職」(マクドナルド事件で有名になりましたが、労基法41条2項の管理監督者とみなして、残業代の支払いを免れる)や、「名ばかり専門業務」(派遣社員の派遣期間の制限のない26業務として期間制限を免れる)などは有名でしたが、名ばかり取締役とは聞いたことがありません。

まだ判決文を読んでいませんが、判決の認定が報道されているとおりだとすると、あまりにひどい事案です。

報道の内容を簡単に説明すると、ある従業員が「名ばかり取締役」に選任され、労働組合加入を理由に解雇された、というものです。

確かに、取締役になれば労働者とはいえないことから、形式上は、労働契約法16条は適用されません。株主総会で解任決議があればそれまでです。

しかし、このような手を使用者側が使ってくるとはあまりにひどすぎです。裁判所の判断も当然だと思いました。

2010年3月25日木曜日

労働審判の第一回期日

今日は、従業員側を代理して申し立てた労働審判の第一回期日でした。

解雇無効と残業代を請求し、請求した残業代のほぼ全額を支払うということで和解が成立し、第一回で終了しました。

最近の東京地裁の労働部は、労働審判を可能な限り一回目の期日で終結させようとしているようです。今日も午前10時からの期日でしたが、結局裁判所の昼休みにまでずれ込み、結局終わったのが12時40分頃でした。労働部の裁判官は、通常であれば午後1時から別の事件の期日が入っているので、昼休みはほとんどない状態で働いていると言えます。

労働審判が事件当事者や弁護士の間で好評であるのも、こうした裁判官の努力があるからなのでしょう。

ただし、労働審判を早く落としたいあまり、(弁護士から見ると)強引な事実認定や和解への説得がなされることもあるようです。

例えば、今日の事件では、解雇予告手当を従業員の方から請求したのですが、この一事をもって、「解雇無効は認められないでしょう」といった認定がなされました。本人は、会社から即時解雇された後、労基署の担当者の指導の下、法律上認められた解雇予告手当を請求したというのが実情のようですが、これが完全に裏目に出てしまいました。

確かに、解雇無効を争う者としては一見矛盾した行動にも思えますが、法律の専門家ではない人の行動にすべて合理的な行動を要求するのも酷な話ですし、請求をした時点では解雇を争えるかどうかも分からなかったのではないでしょうか。

弁護士をしているとよく感じることですが、本件の場合も、即時解雇された時点で、弁護士のところに相談に来てくれれば、もっと有利な和解ができた事案であるといえます。

ちなみに、本件の場合には残業代の請求が認められたので、和解の落とし所としては、(不当解雇の事案として考えた場合には)妥当な線だったと思われます。

本人も非常に満足していて、「これで腰を据えて就職活動ができる」とおっしゃっていました。不況の中ですが、無事に再就職先を見つけて、新たな職場で活躍することを願うばかりです。

弁護士としては、少し嬉しい瞬間でした。

2010年3月24日水曜日

労働審判は労働者側にとってかなり有効な手続きです!

労働審判とは、平成18年4月1日より新たに導入された制度で、裁判所の行う紛争解決手続の一つとなります。


1.労働審判とは

労働審判は、解雇や給料・残業代の不払いなどの労働紛争について、裁判官1名と労働関係について専門的知識と経験を持つ労働審判員2名(1名が企業の人事部に長年所属していた人など、もう1名が労働組合の活動を行ってきた人などが選任されています)で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で事件を審理し、調停を試み、又は審判を行う制度です。端的に言えば、3回以内の期日で、両当事者から直接、自由に事情を聞いて、和解(金銭的解決)を目指す手続きと言えます。

労働審判の主な特徴は、以下のとおりです。

① 早い(迅速性):申立から終結まで平均75日(約2ヶ月半)


② 申立の約88%が金銭解決を中心とした和解的解決

③ 提出書面は原則として申立書(申立人側)・答弁書(使用者側)のみであり、弁護士費用を低く抑えることが可能

2.労働審判の特徴~迅速性

まず、この労働審判の良いところは、なんといっても「早い」(迅速)という点が挙げられます。労働審判が導入されて4年が経ちましたが、労働審判の平均審理期間(申立から終局日)は75日(平成21年2月末現在、最高裁行政局調べ)という司法の世界では驚異的なスピードで紛争解決に至っています。

労働関係の通常訴訟は、平均12.4ヶ月(平成19年)かかっており、また、緊急性を要する労働仮処分などの保全事件についても仮処分決定あるいは和解成立に至るまで3ヶ月~6ヶ月程度かかっていることから比べると、非常にスピーディーであることがお分かりいただけると思います。私の経験でも、1回目の期日は、最初の1時間ほどで審尋手続(双方からの事情聴取)を終えて、その後和解の話合いが行われるのが通常であり、1回目の期日で和解が成立することもよくあります。

弁護士の立場からすると、もう少し緻密に事実認定を行った上で法的判断を示して欲しいと思うことが労働審判の場ではよくありますが、生活がかかっている従業員側にとって、多少「ザックリ」とした事実認定でも、少しでも早く和解金を得られることは非常に大きなメリットと言わざるを得ません。

3.労働審判の特徴~金銭解決を中心とした和解的解決

通常の民事訴訟は、厳格な主張や立証活動によって法律に従って権利関係を確定していく手続きとなりますが、この労働審判は、法律を踏まえつつ(専門性)、より実情に即した解決(柔軟性)を図ることを目指しています。

例えば、従業員が解雇された場合、従業員は不当解雇を主張して解雇無効を主張するわけですが、実際は解雇を言い渡した会社ではもう働きたくないといった場合には、金銭解決がふさわしい解決法となります。労働審判が始まる以前にも、通常の訴訟ではそのような和解がよく行われていましたが、労働審判では更に柔軟な解決ができるよう手続き上担保されました。

それを端的に表しているのが下記のデータとなります。

平成18年の労働審判開始以降の終局事件総数4329件のうち、全体の約7割にあたる3001件が調停成立(和解)で終了しており、審判まで至ったものはわずか825件(19.1%)にすぎません。さらに、審判に至った事件のうち、事件当事者から異議申立がなされて訴訟に移行した事件は520件(63%)で、全体の事件数の12%にすぎません。


このように、労働審判においては、多くの事件(88%)で労働審判委員会の出した調停案や審判によって解決に至っており、他の裁判所の訴訟手続きや行政機関で行われる紛争あっせん手続などでは見られない高い解決率を示しています。

また、その解決の手法も、金銭的解決が中心となっていることから、金銭解決を望む申立人側にとってはとても有効な手続きであるといえます。他方、使用者側にとっては、ザックリとした事実認定を基に和解金の支払いを要求されることから、納得感に欠ける手続きともいえます。

4.まとめ

以上のように、労働審判は、申立から約2ヶ月半という驚異的なスピードで、裁判官らの強力な説得の下に金銭解決の和解が行われています。

申立人にとっては、会社側の責任者を裁判所に出頭させたうえ、自分の不満を裁判官らに聞いてもらい、裁判官らに強力に説得してもらって金銭解決を図ることが可能となっており、非常に満足感の高い手続きといえます。

これに対し、使用者側にとっては、通常、1~2週間という短期間に労働審判に対応しなければならず(日頃、弁護士を使っていない場合には、弁護士を捜すところから始めなければならない)、更に、弁護士費用の他に和解費用も支払わなければならないなど、不満が残ることが多いといえます。

したがって、労働者側にとっては、今後も労働審判手続きを大いに活用していくべきものといえます。反対に、使用者側にとっては、解雇等を行う場合には、今後はかなり高い確率で労働審判の申立がなされることを念頭においておいた方が良いと思われます。いずれにしても、使用者側にとっては、日頃から人事労務問題について弁護士等に相談して、対策を練っておく必要があるといえます。

以上

2010年3月12日金曜日

労基法改正(H22.4.1)-概要

タイトルの通り、この4月から労働基準法が改正されます。今月に入ってから労基法改正に伴う就業規則の変更などの相談が相次いでいることから、大まかな改正ポイントをご紹介したいと思います。詳細は、厚生労働省のホームページで確認してください(http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/12/tp1216-1.html)。

改正ポイントとしては、以下の3点となります。

① 月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金の引き上げ(25%→50%
② 引き上げ分の割増賃金の代わりに有給休暇を付与する制度の導入(代替休暇
時間単位年休を取得することができる制度の導入

上記3点以外にも、時間外労働時間を抑制するために、限度時間を超える時間外労働の割増賃金率を引き上げるよう努める条項などが設けられましたが、所詮努力義務にすぎません。そこで、企業としては、今回の労基法改正にあたっては、上記の3点を検討する必要が出てくるわけです。

ただし、上記②と③の制度は、労使協定を締結すれば導入できる、という制度ですので、従業員(又は労働組合)からこのような制度の導入を希望する声がない場合には、当該制度を導入する必要がありません。

したがって、今回の労基法改正に伴って、就業規則の改訂を最低限の修正で済まそうと考えている企業の場合には、上記①の改訂のみを行えば足りることになるわけです

(続く)