2010年3月24日水曜日

労働審判は労働者側にとってかなり有効な手続きです!

労働審判とは、平成18年4月1日より新たに導入された制度で、裁判所の行う紛争解決手続の一つとなります。


1.労働審判とは

労働審判は、解雇や給料・残業代の不払いなどの労働紛争について、裁判官1名と労働関係について専門的知識と経験を持つ労働審判員2名(1名が企業の人事部に長年所属していた人など、もう1名が労働組合の活動を行ってきた人などが選任されています)で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で事件を審理し、調停を試み、又は審判を行う制度です。端的に言えば、3回以内の期日で、両当事者から直接、自由に事情を聞いて、和解(金銭的解決)を目指す手続きと言えます。

労働審判の主な特徴は、以下のとおりです。

① 早い(迅速性):申立から終結まで平均75日(約2ヶ月半)


② 申立の約88%が金銭解決を中心とした和解的解決

③ 提出書面は原則として申立書(申立人側)・答弁書(使用者側)のみであり、弁護士費用を低く抑えることが可能

2.労働審判の特徴~迅速性

まず、この労働審判の良いところは、なんといっても「早い」(迅速)という点が挙げられます。労働審判が導入されて4年が経ちましたが、労働審判の平均審理期間(申立から終局日)は75日(平成21年2月末現在、最高裁行政局調べ)という司法の世界では驚異的なスピードで紛争解決に至っています。

労働関係の通常訴訟は、平均12.4ヶ月(平成19年)かかっており、また、緊急性を要する労働仮処分などの保全事件についても仮処分決定あるいは和解成立に至るまで3ヶ月~6ヶ月程度かかっていることから比べると、非常にスピーディーであることがお分かりいただけると思います。私の経験でも、1回目の期日は、最初の1時間ほどで審尋手続(双方からの事情聴取)を終えて、その後和解の話合いが行われるのが通常であり、1回目の期日で和解が成立することもよくあります。

弁護士の立場からすると、もう少し緻密に事実認定を行った上で法的判断を示して欲しいと思うことが労働審判の場ではよくありますが、生活がかかっている従業員側にとって、多少「ザックリ」とした事実認定でも、少しでも早く和解金を得られることは非常に大きなメリットと言わざるを得ません。

3.労働審判の特徴~金銭解決を中心とした和解的解決

通常の民事訴訟は、厳格な主張や立証活動によって法律に従って権利関係を確定していく手続きとなりますが、この労働審判は、法律を踏まえつつ(専門性)、より実情に即した解決(柔軟性)を図ることを目指しています。

例えば、従業員が解雇された場合、従業員は不当解雇を主張して解雇無効を主張するわけですが、実際は解雇を言い渡した会社ではもう働きたくないといった場合には、金銭解決がふさわしい解決法となります。労働審判が始まる以前にも、通常の訴訟ではそのような和解がよく行われていましたが、労働審判では更に柔軟な解決ができるよう手続き上担保されました。

それを端的に表しているのが下記のデータとなります。

平成18年の労働審判開始以降の終局事件総数4329件のうち、全体の約7割にあたる3001件が調停成立(和解)で終了しており、審判まで至ったものはわずか825件(19.1%)にすぎません。さらに、審判に至った事件のうち、事件当事者から異議申立がなされて訴訟に移行した事件は520件(63%)で、全体の事件数の12%にすぎません。


このように、労働審判においては、多くの事件(88%)で労働審判委員会の出した調停案や審判によって解決に至っており、他の裁判所の訴訟手続きや行政機関で行われる紛争あっせん手続などでは見られない高い解決率を示しています。

また、その解決の手法も、金銭的解決が中心となっていることから、金銭解決を望む申立人側にとってはとても有効な手続きであるといえます。他方、使用者側にとっては、ザックリとした事実認定を基に和解金の支払いを要求されることから、納得感に欠ける手続きともいえます。

4.まとめ

以上のように、労働審判は、申立から約2ヶ月半という驚異的なスピードで、裁判官らの強力な説得の下に金銭解決の和解が行われています。

申立人にとっては、会社側の責任者を裁判所に出頭させたうえ、自分の不満を裁判官らに聞いてもらい、裁判官らに強力に説得してもらって金銭解決を図ることが可能となっており、非常に満足感の高い手続きといえます。

これに対し、使用者側にとっては、通常、1~2週間という短期間に労働審判に対応しなければならず(日頃、弁護士を使っていない場合には、弁護士を捜すところから始めなければならない)、更に、弁護士費用の他に和解費用も支払わなければならないなど、不満が残ることが多いといえます。

したがって、労働者側にとっては、今後も労働審判手続きを大いに活用していくべきものといえます。反対に、使用者側にとっては、解雇等を行う場合には、今後はかなり高い確率で労働審判の申立がなされることを念頭においておいた方が良いと思われます。いずれにしても、使用者側にとっては、日頃から人事労務問題について弁護士等に相談して、対策を練っておく必要があるといえます。

以上

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