2010年10月20日水曜日

豊橋労働基準監督署事件・名古屋高裁H22.4.16 -障害者における業務起因性の判断基準

判例タイムズ1329号121頁

〔事案の概要〕

訴外Aは、平成9年11月に不整脈による心機能障害で身障者認定を受け、平成12年11月、身障者枠で、訴外会社に採用され、商品販売等の立位による仕事に従事していたところ、翌月24日の帰宅後、心停止により死亡した。Aの妻であるXは、労災保険法に基づく遺族補償年金等の支給を申請したが、不支給の処分がなされたため、当該処分は違法であるとして、その取消しを求めた。1審は、Aの死亡直近の時間外労働が月33時間で、国が過労死認定基準の一つとする月45時間を下回っていることなどを考慮し、業務は過重とは言えないとして請求を棄却した。

〔結論〕

 労働者災害補償保険法による遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の各処分を取り消した。

〔判示事項〕

① 業務起因性の判断基準

控訴人の主張:労災保険法の趣旨が被災労働者や遺族の生活を補償することにあり、労働者は個人ごとにそれぞれ異なるとして、当該被災労働者を基準に判断すべきである。→当該労働者を基準として、他に確たる発症因子が無く、当該労働者が従事していた業務が、同人の有していた基礎疾患を自然的経過を超えて憎悪させる要因となりうる負荷(過重負荷)のある業務であったと認められるときは、その基礎疾患が自然的経過により疾患を発症させる寸前まで進行していたと認められない限り、業務と死亡との間に相当因果関係があると認めるべきである。

被控訴人の主張:労働基準法や労災保険法の趣旨が危険責任の考え方に立っていることを前提として、因果関係が認められるためには、災害が当該業務に内在する危険の現実化したものであることを要するとし、平均的労働者を基準に判断すべきである。

裁判所の判断:相当因果関係の判断の基準について判断するに、確かに、労働基準法及び労災保険法が、業務災害が発生した場合に、使用者に保険費用を負担させた上、無過失の補償責任を認めていることからすると、基本的には、業務上の災害といえるためには、災害が業務に内在または随伴する危険が現実化したものであることを要すると解すべきであり、その判断の基準としては平均的な労働者を基準とするのが自然であると解される。しかしながら、労働に従事する労働者は必ずしも平均的な労働能力を有しているわけではなく、身体に障害を抱えている労働者もいるわけであるから、仮に、被控訴人の狩猟が、身体障害者である労働者が遭遇する災害についての業務起因性の判断の基準においても、常に平均的労働者が基準となるというものであれば、その主張は相当とは言えない。・・・したがって、少なくとも、身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に、その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には、その業務起因性の判断基準は、当該労働者が基準となると言うべきである。なぜなら、もしそうでないとすれば、そのような障害者は最初から労災保険の適用から除外されたと同じことになるからである。

〔コメント〕

・ 障害者の保護という観点から原則を修正していますが、論理的な裏付けが希薄ではないかという印象があります。すなわち、判決文には“身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合、当該労働者を基準としなければ、最初から障害者を労災保険の適用から除外されたと同じ”と述べていますが、何もこれは身体障害者に限った話ではなく、何らかの基礎疾患を持っている労働者全てに当てはまるのではないでしょうか。私は、身体障害者の保護という観点から、立法的に解決すべき問題のように感じます。

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