2010年4月26日月曜日

残業代の請求 -従業員側からの請求編

1.残業代請求事件の増加

前編で述べたとおり、労働審判の申立件数は激増しており、そのうち残業代の請求事件も一定の割合を占めていることから、その数は増加しております。

判例タイムズ1315号(3/15号)に掲載されたとおり、東京地裁における事件種別ごとの申立件数は下記のとおりです。


上記の統計によれば、地位確認(不当解雇として解雇を争う事案)が最も多い類型となっています。しかし、裁判所の説明によれば、統計を取る際、地位確認と未払賃金(残業代を含む)の両方の請求がされているものは地位確認ということでカウントしているとのことで、実際には、残業代を請求する事案はかなり多いと言えます。


2.残業代とは

残業代とは、簡単に説明すると、「1日8時間、1週40時間」を超過して働いた場合に、その超過した時間分の賃金割増賃金(超過時間分の賃金の25%)のことを指します。

例えば、所定労働時間が午前9時から午後6時まで(昼休み1時間)の8時間と定められている場合に、午後8時まで勤務すれば、2時間分の賃金と割増賃金が請求できることになります。

上記の点を定めた労働基準法は、強行法規であるので、就業規則や雇用契約書などに残業代を支払うことが明記されていなくても(又は、残業代を支払わないという運用が社内で行われていたとしても)、残業代は法律上当然に支払われなければならないものです

従って、世間で言われている「サービス残業」というのは、残業しているのにもかかわらず、割増賃金どころか当該時間分の賃金すら支払わないというものですから、完全に違法であると言わざるを得ません。すなわち、「サービス」と称して、他人のもの(他人の時間や労働)を盗んでいるのと同じです。


3.訴訟や労働審判を提起した方がいいのはどんな人?

それでは、弁護士費用を払ってでも、残業代請求の訴訟や労働審判を提起した方がいいのは、どんな人でしょうか?

残業代を裁判上請求するには、勤務時間を立証する証拠の有無やそれぞれの業務内容、個々の勤務条件等で異なってくることから、一概に言うことはできません。ただ、下記のうち二つ以上当てはまる場合には、一度、弁護士に相談した方がいいと思います。

① 月給として固定の基本給と(残業代以外の)手当しかもらっていない人

② 週6日勤務の人(月に6日程度しか休みをもらってない人)

③ 出退勤管理がなされていない会社に勤めている人

典型的に、この①から③に当てはまる人として、よく言われているのが、(1)飲食店に勤めている人、(2)理容師・美容師などが挙げられます。

これらの人は、その多くが週1回の定休日しか休めず、勤務時間が午前10時から午後11時までなど、1日の労働時間が長時間に及んでいるという傾向があります。

例えば、月給25万円、勤務時間が午前10時から午後11時ぐらいまで(休憩時間は1時間のみ)、月に6日程度の休みが与えられている場合、残業代はいくらぐらいになるのでしょうか?残業代請求の消滅時効は2年ですので、2年分の残業代を概算すると下記のとおりです。

 1ヶ月25日×所定労働時間8時間=200時間
月給25万円÷200時間=1,250円(1時間当たりの単価)
週5日勤務の週が2週:12時間×5-40=20時間 20時間×2週=40時間
週6日勤務の週が2週:12時間×6-40=32時間 32時間×2週=64時間
40時間+64時間=104時間
1,250×1.25×104=162,500円・・・1ヶ月分の残業代
162,500×24=3,900,000円・・・2年分の残業代


残業代390万円というのは、驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

上記の計算は、4週(28日)分しか算定していませんので、実際上はもっと増えるかもしれません。また、平成22年4月から労働基準法が改正され、1ヶ月60時間を超える部分は、割増賃金を25%から50%に引き上げなければならなくなりました。

とすると、今回の設定のような場合、今後は400万円以上の残業代を請求することが可能となりそうです(但し、労働審判の場合には、両当事者の和解が基本となりますので、実際に受け取れる金額はそれよりも低くなります)。

300~400万円といえば、十分、独立や起業の元手となる金額であり、弁護士費用を支払っても十分ペイする金額ではないでしょうか。上記①から③に該当する場合には是非弁護士にご相談されることをお奨め致します。


4.残業代請求に向けての準備

残業代請求に向けての準備で一番重要なのは、「残業時間を立証する証拠」を収集することです。どんなに優秀な弁護士を付けたとしても、証拠がなければ話になりません。

「残業時間を立証する証拠」としては、タイムカード業務日報給与明細(実働時間が記載されたもの)などが挙げられます。これらの文書が会社側から承認された文書(上司の承認印などが押印されたもの)であれば、なお信用性の高い証拠となります。

まずは、これらの証拠を確保するのが先決といえるでしょう

また、「従業員が個人的に手帳などにメモした出社・退社時間は証拠となるのか?」という質問をよくいただきますが、個人的なメモのみでは立証上かなり難しいと言えます。

手帳のメモを証拠として出す場合には、業務実態の主張とともに、パソコンの作業履歴やメールの送信記録、会社建物の警備会社の施錠・開錠記録など、残業したことを示す証拠もあわせて提出することが必要となります。

私も手帳メモを証拠として提出した経験がありますが、裁判官を説得するのになかなか苦労しました(苦労はしましたが、労働審判である程度の残業代を認めてもらった経験があります)。


5.まとめ

以上のとおり、残業代の請求は、なんといっても証拠の確保に尽きるのではないかと思います。まずは証拠を確保してから、弁護士にご相談されることをお奨め致します。

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